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雪の日の音楽   


GULDA,FRIEDRICH/Recital Montpellier 1993


目覚めて窓の外に目をやると、見下ろす家々の屋根に雪が積もっていた。
東京は、20年ぶりとも言われる大雪。
雪国で暮らしている人達からは叱られてしまうかもしれないけれど、来世は猫に生まれてきて、ひねもす日向ぼっこして過ごしたいと願う僕は、「不要不急の外出は控えるように」というニュース番組のテロップに素直に従い、部屋で本など読んで過ごしていた。

ところで、誰しも心の中に、1曲ないしはアルバム1枚くらい、こんな雪の日に聞きたい音楽というのをお持ちではないかと思う(雪国で暮らしている人にとっては、恐らく15枚組程度のボックスセットになっているのではないかと想像する)。
僕にとっては、フリードリヒ・グルダのこのライヴ・レコーディング・アルバムをCDラックから引っ張りだしてくるのが、雪の日の慣例となっている。
1993年のモンペリエ・サマー・フェスティヴァルの音源で、録音されたのは7月31日。
梅雨も明けて、「さあ、いよいよ夏本番!」といった時期の演奏である。フランスに梅雨はないと思うが。

そんな真夏にレコーディングされた音楽を、なぜ雪の日に聞きたいと思うのか。
それは、このCDを買ったのが、小雪のちらつく冬の日だった…ということもあるのだけれど、グルダの弾くピアノの音ひとつひとつが、空から静かに舞い降りてくる雪片を思わせるからなのだ。

恐らく屋外の会場であるが故のリバーブのかかり方や、空気感も関係しているのだろう。
ここで彼が生み出す音は、雨粒のように一直線に地面をめざして落ちてくるのではなく、辿り着く場所を求めてひらひらと風に舞いながら降下してくるように感じられる。
グルダと言えば、クラシック界に身を置きながらも、一時期ジャズに手を伸ばしたことが知られているが、この軽やかに躍る音色は、そんなキャリアに相応しいもののようにも思える。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番の途中、飛行機がコンサート会場の上空を横切る音が聴こえてくる。
屋外であるとはいえ、クラシックのコンサートにはあるまじきハプニング。
しかし、そんなことはお構いなしに、グルダは平然と弾き続ける。
これもまた、人の営みなど関係なく降り続け、交通網も経済活動も白く塗りつぶしてしまう雪のようである。
舞い散る音が、聴き手の上に淡々と積もってゆく。

2枚組のアルバムはグルダ自身の作曲によるアリアで幕を閉じる。
演奏家だけでなく、聴衆もリラックスして迎えたアンコール。叙情的なメロディをもつこの4分半の小品からは、雪雲が去った翌朝の陽光のような、ささやかなきらめきを感じることができる。

夜になってから、風雪は一層強まってきた。
停電している地域もあるようである。
どうか明日の朝にはこの激しい雪も止んで、グルダのアリアのような陽光が降り注いでくれますように。


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category: 音楽

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コメント

こんにちは。

雪、つもってますね〜

私の住む街は銀世界が3ヶ月くらい続くので
ああ、雪ね、という感じで。日常です。
音楽もいつものをふつうに聴いています。
逆に、雨のほうがぐっときます。
雨が降ってるって、気温が高いってことだから〜
もう嬉しい♪みたいな。

雪に降りこめられるって稀にだと
とっても素敵かもしれませんね。

URL | 涼虫(すずむし) #-
2014/02/09 16:43 | edit

涼虫さん

コメントありがとうございます。

> ああ、雪ね、という感じで。日常です。
> 音楽もいつものをふつうに聴いています
なるほどそういうものですか。
雪の種類ごとに違ったプレイリストがあったりはしないのですね。
♪こな雪、つぶ雪、わた雪、ざらめ雪~
みず雪、かた雪、春待つ氷雪~
みたいな感じで。
…。

> 逆に、雨のほうがぐっときます。
おお、これはまた斬新なご意見!
こういう、自分にはない感覚の持ち主に出会うと、うれしくなってしまいます♪
♪雨、雨、降れ、降れ、もっと降れ~
みたいな感じでしょうか。
…。
…おかしい。
クラシックについての記事を書いたはずなのに、なぜ俺は演歌談義をしておるのか…Orz

> 雪に降りこめられるって稀にだと
> とっても素敵かもしれませんね。
片づけなければならない用事が山ほどあるにもかかわらず、本を読み始めてしまう…というのはいつものことなのですが、罪悪感を感じずに済むというのはたしかに素敵かもしれません。
Blame it on the snow...

URL | stick boy #-
2014/02/09 18:58 | edit

雪の日の音楽、、いろいろ考えてみたんですが無音なんですよ〜
耳の奥がひやりとしぃんとする無音、、かな?(笑)

↑確かに、、日常に「雪」があるんですものね。
ちょっと、大騒ぎして恥ずかしい、、、(照)

URL | ちまちま子 #-
2014/02/09 19:18 | edit

ちま子センパイ

> 雪の日の音楽、、いろいろ考えてみたんですが無音なんですよ〜
> 耳の奥がひやりとしぃんとする無音、、かな?(笑)
師曰く、無音もまた音楽也...。


> ↑確かに、、日常に「雪」があるんですものね。
> ちょっと、大騒ぎして恥ずかしい、、、(照)
雪より雨の方がぐっとくる...という涼虫さんのご意見には、「おおっ!」とうならされましたが、
ちま子センパイにはちま子センパイの、
「子ちまちゃんとちま夫さんとエビちゃんクロちゃんとの日常」があって、
そういうヴァリエーションが素敵なのだと思います。

とこで、グルダのこのCDは本当におススメです。
本文にも書きましたが、ベートーヴェンのピアノソナタの途中で飛行機が飛び去るところとか、本当にひっくり返ります!
ヘタなロックのアルバムより、はるかにアヴァンギャルドですっ!
(Predawnに引き続き、買わせようとしている...)

URL | stick boy #-
2014/02/09 20:49 | edit

雪、すごかったようですね。大丈夫でしたか?
私の住むところはもともとあまり降らない地域なので、雪が降るとテンション上がって庭を駆け回る犬のような心境になります…。不謹慎と思いつつ、大雪情報にちょっと羨ましいと思ってしまう、ことり犬…。
たまにしかないからこそ、私も雪の日は、しんとした、凛と研ぎ澄まされた音のない音、のような空気感が好きです。

URL | ことり #-
2014/02/10 23:25 | edit

ことりさん

コメントありがとうございます。

> 雪、すごかったようですね。大丈夫でしたか?
いやー、ホント大変でしたよ!
雪見酒としゃれ込んだら、すっかり飲み過ぎてしまい…。
…。

> 私の住むところはもともとあまり降らない地域なので、雪が降るとテンション上がって庭を駆け回る犬のような心境になります…。
本文中にも書きましたが、僕は寒いのが大の苦手なので、雪が降るとテンション下がって、こたつで丸くなる猫のような心境になります…。

しかし、「ことり犬」というのは、どことなく仏蘭西風の響きがありますな。
コトリーヌ!
…。

…ということで、南仏はモンペリエでの録音となる本作、おススメです!

URL | stick boy #-
2014/02/11 17:44 | edit

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